あわよくば、そんなつもりで購入した。
だが実際に現物を手にしてしまうと、どうしても使用したくなってしまう。
これらを着けたヒューバートはさぞや可愛いのだろう。想像しただけで頬が緩んでしまう。
どうにかあの照れ屋の弟に着けさせたい。その思いが強まるのを感じて、アスベルは決心したように頷いた。
***
場所は変わって、執務室の前。
今、この中でヒューバートは軍の仕事をしている。
今日は1日、ヒューバートが大統領からの仕事を終わらせるまで休みになっていた。
アスベルは静かに扉の前に移動すると、ノックする。すぐに中からヒューバートの声がかかったので、返事をした。
部下か何かだろうと思っていたところへアスベルの声が返ってきて、ヒューバートは驚いたようだった。
入室の許可を得て、アスベルは扉を開いた。
「急に悪いな、仕事……片付いてるか?」
「ええ、もう少しですよ」
ヒューバートはペンを休めてアスベルを出迎えた。机上には書類が広がっていて、仕事中であった事が伺える。
アスベルは気遣う素振りを見せながら、ヒューバートの傍まで移動した。
終わりそうとの言葉のとおり、書類はだいぶ片付いてあった。
「なぁ、ヒューバート……。その、お願いがあるんだけどさ」
後ろ手に隠し持った猫耳カチューシャを握る手に、無意識のうちに力が入るのを感じながら、
アスベルは意を決して口を開いた。
急に訪ねて来たからには何かしらの用事があっての事だろう、粗方の予想がついていたヒューバートは、じっと兄を見つめる。
兄のなんだか緊張した様子の表情にも、十分に違和感があるのだが。
それよりも、それで上手く隠しているつもりかと問いたくなるような、不自然に後ろに回された腕へヒューバートの意識は向かった。
静かに椅子から立ち上がって、そわそわと落ちつかないアスベルの傍へと歩み寄る。
「そのお願いと言うのが、兄さんの隠し持っている何かに関係するのならお断りです」
途端にアスベルの肩がびくりと跳ねる。何故バレたのだと言いたげな表情だ。
「なんで……」
「それで隠しているつもりですか? 見せてください」
どうやら隠していたつもりだったらしい。ヒューバートは強めの口調で命令する。
一瞬ためらうアスベルを真っ直ぐに見つめ、急かすべくアスベルの前に手を差し出した。
もう逃げられないと悟ったアスベルは、ヒューバートの手にカチューシャを乗せた。
手渡されてから確認するより先に、それが何であるか見て取れてしまったヒューバートは、
思わず受け取る手を引っ込めかけて、何とか耐えた。
兄の手に大切そうに握られていた物をまじまじと見つめて、これはなんと声をかければ良いのか。
「まさか、これ買ったんですか?」
一先ず気になっている事がヒューバートの口をついてでる。
そのヒューバートの問いに、静かに頷くアスベル。
「貴方は、またこんな無駄遣いして!」
「っ、だって……」
語調を荒げるヒューバートに、アスベルは眉を下げて落ち込んだ。
しゅん……としてしまったアスベルを、ヒューバートは冷めた気持ちで見て、黙り込む。
色々と言いたい事があるのに、こんな姿を見せられてしまうと、どうしてもその先の言葉が出てこない。
悔しいから、視線でだけでも兄を責めたかった。
「それな、ヒューバートと同じ髪の色だったから、つい……」
ちらりとこちらの様子を伺うようにして、顔を上げたアスベルの言葉が耳に届く。
それにつられるようにして、ヒューバートは手の中のカチューシャを改めて見た。
確かに水色の猫耳が飾られていて、自分の髪色に似ていなくもない。
それにしたって、聞けば聞くほどにしょうもない理由だと思った。
しかし、アスベルの方は至って本気だったらしく、その落ち込み方は相当のものだ。
思わずヒューバートの悪い癖が顔を覗かせてしまう程に。
はぁ、と大きなため息がヒューバートの口からこぼれた。
それはアスベルの耳にもしっかりと聞こえたのだろう。
びくりと再び兄の肩が震えるのを、ヒューバートは視界の端で捉えた。
「仕方ないですね、1回……だけなら」
「えっ? 着けてくれる、のか?」
「その代わり、1回だけですからね!」
1回だけを強調して再度提案すれば、それで良いと何度も頷くアスベル。
先ほどまでの落ち込み具合から一転。アスベルの表情は、輝かんばかりの笑顔になった。
喜色満面のアスベルとは反対に、ヒューバートの方は恥ずかしいやら、また甘やかしてしまった後悔やらで複雑な表情へと変化した。
そんなむすっとした表情のまま、ヒューバートは猫耳の付いたカチューシャを頭に乗せる。
頭の上に普段は感じない違和感。
それがあの猫耳のカチューシャだと思うと、どうしようもない羞恥がヒューバートを襲った。
しかし、ここで少しでも恥ずかしがったり、悔しがったりしようものなら確実にアスベルを調子に乗せることになる。
今までの経験でそれが痛いほどに分かっていたヒューバートは、努めて平気な、なんでもないふりをして見せた。
半分は自棄だった。
「どうですか、これで満足でしょう」
開き直りのおかげもあってか、堂々と兄へと己の姿を晒すヒューバート。
すぐにでも、あのでれっとした情けない表情をするのだろうと、思っていたのに。
ヒューバートの予想は外れた。
アスベルは真顔でヒューバートを見つめると、ごくりと一度生唾を飲み込むように喉を鳴らす。
それだけだった。
後はじっとヒューバートを見つめて黙り込んでいる。
いつまでも反応が無いと言うのは、それはそれで不安を煽る。熱心に見つめられ、居心地も悪い。
何より、つける前のあの笑顔を思うと、それはそれは多大なまでの期待をしていたのだろう。
それが、いざ着けてみたら、アスベルの期待に沿わなかったのではないか。
猫耳が似合うだなんて、決して喜ばしい事ではない。
だが、大切な兄をがっかりさせてしまったかも知れないという事実が、ヒューバートをひどく打ちのめした。
「兄さん、何か言ってください……」
ヒューバートは情けなく声を震わせて、未だに無言を貫くアスベルの様子を伺う。
もう一度口を開こうとしたが。それは背後の執務机に押し倒された事で、声にならない悲鳴に変わった。
強く打ったらしい背中がじんじんと痛みを訴え、何がなんだか分からなくて瞬き眼前の兄を見つめた。
「ごめん、ヒューバート。それだけじゃ足りないから、もう少し付き合ってくれ」
やっと聞くことが叶った兄の声は、随分と追い詰めたような、切羽詰まったものだった。
付き合うとは一体何を……と、聞き返す暇すら与えずに、ヒューバートの体が反転させられる。
そのせいで、自分が倒れこんだ時に折れてしまったらしい書類が目の前に飛び込んでくる。
「ちょっと、兄さんっ! 書類、折れて……」
「大事なものなのか?」
「いえ、目を通せば良いだけのものですが」
なら大丈夫だなと、アスベルは勝手に解決してしまうと、ヒューバートの軍服へと手を伸ばす。
インナーの上から肌を撫でるアスベルの手に、ヒューバートの体が震える。
状況をいまいち把握出来ていない内に、完全にアスベルのペースに飲まれてしまっている事に気付いたヒューバートは、
今更ながらに抵抗した。
「に、兄さん、何する気ですか。ぼくにはまだ仕事が……っ、離して下さい!」
「何って。猫には耳と、後は尻尾が必要だろ?」
「尻尾……?」
ヒューバートは肩越しに背後のアスベルを振り返り、恐ろしいものを見た。
どこから出したのか、アスベルの手には、いわゆる大人の玩具と呼ばれる類のものが握られていた。
その根元にふさふさとしたファーのようなもの――恐らく、アスベルの言う尻尾だ――が、付いている。
そこまで見せられれば、アスベルが何を考えているのか手に取るように分かってしまい、ヒューバートは青ざめる。
「嫌……嫌ですっ!」
忘れていた抵抗を思い出したように暴れだし、何とかアスベルの拘束から逃れようと試みる。
しかし、それはヒューバートの思うようにはいかない。
アスベルは暴れるヒューバートへ体重をかけるようにして押さえつけながら、軍服のインナーを脱がしにかかった。
最初のころは随分と苦労させられたこの軍服も、今では手馴れたもので、簡単に脱がせてしまう。
下半身をまとう物が無くなって、ヒューバートの焦りがより一層強まった。
いつ部下がたずねて来るかも分からない執務室で、こんな醜態を晒しているだなんて、耐えられなかった。
それでも、抵抗は叶わなくて、嫌だと力なく首を横に振る事しか出来ない。
それがまたアスベルの加虐心を煽って、行為をエスカレートさせる。
アスベルはそっと耳元へと顔を寄せ、耳の裏側をぺろりと舐め上げた。
「ひっぅ、やぁ……」
「嫌じゃないだろ? ほら、これ舐めて自分で濡らせよ。痛い思いはしたくないよな?」
言うが早いか、アスベルはヒューバートの返事も待たずに、手にした尻尾付きのバイブをヒューバートの口へと銜えさせた。
突然の事で咽そうになり、ヒューバートの目じりに涙が浮かぶ。
それでもアスベルは勘弁するどころか、ぐっと更に奥へと銜え込ませた。
「……ンっ、んぅ」
最初こそ、舌で押し返そうとか、顔を逸らしてバイブを吐き出そうとか、ヒューバートに考えられる抵抗は全て試みた。
しかし、どれも意味は成さず、ヒューバートはとうとう観念した。
無機質なそれへと舌を這わせ、懸命に濡らしていく。
悔しいが、今まで再三に渡って兄に躾けられた身体は、簡単に抵抗する事を諦める。
従っていれば優しくしてくれるし、褒めてもくれる。
それなら、無闇に逆らわないほうが良い、今回も早くもその思考に流れつつあった。
呼吸を乱し、まるでアスベル自身を愛撫するように丁寧に舌を這わす。
とろりとバイブの先端を唾液が伝い、根元を持っていたアスベルの手を汚した。
それを見て十分に濡れたと判断したアスベルは、ヒューバートの口からバイブを抜き去る。
そして、満足に慣らしてもいない、秘部へと宛がった。
「ちょ、兄さんまだ……」
「大丈夫だろ? これはちゃんと濡れてるし」
アスベルのとんでもない発言に、ヒューバートは逃げるように身じろいだ。
確かにバイブは己の唾液で濡れているかもしれない。しかし、後ろはそうではない。
そんな状態であんな物を挿れられたら、どうなるか。
痛いだけでは絶対に済まない。
小さく震え必死に抵抗するヒューバートをあざ笑うように、アスベルは奥深くへとバイブを挿入させていく。
「っぅあ! 痛ッ……や、ぁ」
内壁を押し広げられる鋭い痛みに、ヒューバートは我慢できずに声を上げる。
悲痛なそれを聞いてなお、アスベルは止める事無く、むりやりに根元まで埋め込んだ。
痛みと圧迫感とで苦しくて、ヒューバートの瞳からぼろぼろと涙がこぼれる。
それは頬を伝って机の上でくしゃくしゃになってしまった書類に落ち、パタパタっと乾いた音を立てた。
「ヒューバート、泣くなよ。大丈夫か?」
肩で息をして、痛みに震える弟の身体をアスベルはそっと抱きしめる。
無茶を強いた自覚は、多少はあって。
せめてヒューバートが落ち着くまで待とうと思ったのだ。
そんなアスベルの気まぐれにヒューバートは振り回されて、その気まぐれの優しさに縋って夢中になる。
次々と零れる涙を止める事が出来ずに、それでも背中から伝わる兄の温もりは暖かくて、愛しいと思えた。
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