ヒューバートの呼吸も落ち着いてくると、アスベルはそっと離れた。
今まであった温もりが離れ、ヒューバートは不安を露にしながら、肩越しに背後へと視線を送る。
兄を探すように空ろな視線をさ迷わせ、小さく呼ぶ。
しかしその声には応えずに、アスベルはヒューバートの身体を見つめた。

涙に濡れた瞳、乱れた軍服、頭には猫耳、そして尻から生えた尻尾。
悩ましげなヒューバートの姿に、アスベルはこくりと生唾を飲み込む。
先ほどの猫耳だけの姿でも相当可愛かったのだが、今はそれ以上だった。
今すぐにでも抱きしめてキスをして……無茶苦茶に鳴かせてやりたい。

だが、その前にせっかくの玩具なのだから使わなくては勿体無い。
アスベルはズボンのポケットに手を入れると、遠隔式のスイッチの電源を入れた。
すると、ヒューバートの中に埋められたバイブが暴れだす。


「ひっ、あっぁ……なか、やぁ……っ」


ヴヴヴ……と、バイブが振動する音が室内に響くと同時に、ヒューバートの身体が跳ねる。
折角落ち着いたというのに、痛みと一緒に快感を与えられてヒューバートはぎゅっと目を瞑って息を乱す。
機械によって断続的に与えられる快感は、否応なしにヒューバートを攻め立てた。
敏感な身体が跳ねる度に、垂れ下がった尻尾が揺れて、まるで喜んでいるようだった。


「そんなに尻尾振って、嬉しいのか?」

「んぁ、あっ……違っ、っあぁ!」


違うと首を横に振りながら、それでも与えられる快感に忠実なヒューバート自身は熱を持ち、頭を擡げ始めていた。
それに目ざとく気付いたアスベルは、その存在を知らしめようと強く握る。
自身への刺激にヒューバートは甘く鳴き、握られた痛みすら快感に変えているようだった。


「だったらこれはどう説明するんだよ。痛くされて感じてるくせに」

「違っ、違うんですっ、にいさ、ん……だから。っん、ぁ」

「俺だから? 当然だろ、俺以外のやつに感じたら許さない」


弟相手に向けるには行き過ぎた執着と情欲。
ヒューバートが自分以外の誰かと、だなんて想像しただけで胸がかき乱されるようだ。
アスベルは苛立ちを隠すつもりも無く、ヒューバート自身を締め付けた。同時に敏感な先端へ爪を立てて痛みを与える。
甘い悲鳴と共に、先端から堪え切れなかった先走りが零れたのが見てとれて、アスベルは小さく笑う。


「やっぱり痛いの好きなんじゃないか、ヒューバートの変態」


わざと辱める言葉を投げかけてやれば、羞恥に震えるヒューバートの瞳が再び潤み始める。
ふるふると身体が震えているのも分かって、アスベルは益々気を良くした。

クチクチと粘着質な音をわざと立てながら、ヒューバート自身を苛めている所に、突然ノックの音が響いた。
今まで閉ざされた扉を隔てて二人っきりの世界だった室内が、急に外界と繋がったような錯覚に、
ヒューバートは他人事の様に扉を見つめた。


「オズウェル少佐、宜しいでしょうか?」


アスベルさえも行動の一切を止めて、様子を伺う中。
軍人らしい規律に固まった声が扉を越えて二人の元へと届いた。



「……ぁ、あ……」

その声に、ヒューバートは一気に現実に引き戻された。
鍵も閉められていない扉が、開かれるかも知れない恐怖に言葉にならない。
可哀想なほどに震えるヒューバートをアスベルは抱きしめる。


「ヒューバート、落ち着けよ。入るなって言えば良いだろ?」

「でも……喋れなっ、ひっ」


アスベルは、これは面白いとばかりに意地悪な笑みを浮かべて、中断していた自身への刺激を再開する。
この予想外の事態にヒューバートは狼狽して、今にも泣き出しそうな表情で唇を噛み締めて耐えた。
少しでも声が漏れてしまったらと考えただけで、死んでしまいたくなるほどの羞恥だった。
それなのに、アスベルはこの状態で会話をしろというのだ。
無論、自分が声を掛けなければならないのは分かっている。それでも、その勇気はヒューバートには無かった。
何かを言いかけて開く唇も、直ぐに与えられる刺激に喘がないようにと閉じられてしまう。


「少佐?」


いつまで経っても返答の貰えない部下は、早くも焦れ始めているようだった。
直ぐにでも扉を開かれてしまうのではないか、そして開かれてしまった後の事を考えると、ヒューバートの足が震える。
――怖い。


「しょうがないな、待ってるから」


流石に危ないと考えたアスベルは、一旦刺激を止めてやる。これで少しはまともに話せるだろう。
その配慮にヒューバートも決意を固めた、少しでも落ち着こうと数回深呼吸をした後、漸く口を開いた。


「すみません、今……立て込んでいて。急用でなければ、……っぁ、んんっ……!」


ヒューバートが部下へと指示を飛ばし始めたのを見計らって、アスベルは挿入させたままだったバイブの位置をずらした。
そして最も敏感である前立腺へと、容赦なく振動するバイブの先端を押し当てる。
ヒューバートは信じられないと背後の兄を睨むが、逆に楽しむような視線を向けられてしまう。
口を開けば喘ぎ声が出てしまいそうで、抗議をする事すら出来ない。

此方の不振な様子にただ事ではないと慌てる部下の声に、ヒューバートの頭は完全に混乱した。
とにかく、この場を離れてもらわないと、その一心で再び口を開く。


「なん、でも……ありませんから。後にっ、して下さ……っく」


指示を聞き届けた部下は、一瞬渋った素振りを見せる。
しかし、上官であるヒューバートの指示だからと、そのまま執務室の前から離れてくれたようだった。
再び辺りに静寂が広がって、それと同時にアスベルも挿入していたバイブを引き抜いた。
濡れててらてらと光るそれを床に放って、ヒューバートに覆い被さる。


「ヒューバート、あの人に見られるかもって興奮しただろ」

「……っしてません! それより、どうして邪魔したんです!?」

「ヒューバートが可愛いから。からかいたくなった」

「なっ! もし見られていたら……っ」

「その時は、ヒューバートのせいだろ?」


あんまりな言い分にヒューバートは流石に我慢の限界に達して、涙目のままアスベルをきつく睨み付ける。

(そういう反応をするから苛めたくなるのに……。)

わざと煽っているのではないかと疑いそうになりながら、アスベルはヒューバートの目尻に浮かんだ涙を舌で舐め取る。
そして、先までバイブを銜え込んでいた入り口に、己の猛った自身を押し当てた。


「文句は、全部終わったら幾らでも聞くから。ヒューバートだって辛いだろ?」

「別に、つらくな……あっ、ひぁぁっ!」


散々ヒューバートの乱れた姿を見せられて、アスベル自身も既に我慢の限界だった。
抑えきれぬ欲のままにヒューバートの中へと自身を埋め、強い締め付けに息を詰めた。
挿入の衝撃だけで、ヒューバートは限界に達し、床と机とに精が飛んだ。








      ***



結局ヒューバートも欲には勝てずに、そのまま最後まで流されてしまい。
結果、床はどちらの物とも分からぬ精で汚れ、机上は勿論、書類は滅茶苦茶。
あれ程余裕のあった仕事は、切羽詰った状態になった。
挙句の果てに、無茶な体勢での行為に腰は痛いし、身体全体が気だるい。
ヒューバートはペンを置き、一人床の掃除をしているアスベルへと視線を向けた。

行為が済んで一呼吸置いてから、ヒューバートは溜まりに溜まった不満をぶちまけ、おまけにアスベルの腹へ一発くれてやった。
人が何も言わないで居れば、好き勝手に解釈して無理難題の変態行為を押し付けきて。
その上、あんな事まで。
思い出しただけで頬に熱が集まるのを感じて、ヒューバートは頭を振った。

その文句以降、アスベルとは満足に会話をしていない。
時間に押されて残りの仕事を片付ける事になってしまったこともあるのだが、ヒューバートなりの報復でもあった。
暫くはご機嫌を直して貰おうと、アスベルの方から声を掛けてきたのだが、何度も無視し続けている間にそれも無くなった。
仕事もひと段落して、怒りも納まってきたせいか、ヒューバートの方も寂しさを覚え始めていた。


「兄さん、言っていましたよね……。自分以外の人にぼくが感じたら嫌だって……」


アスベルは答えない。
ヒューバートはそれでも構わなかった。まるで独り言の様に言葉を紡いでゆく。


「それは、ぼくだって同じなんですよ。兄さん以外に……あんな、姿とか、声とか……見せたくないんです」

「……ヒューバート」


ヒューバートの言葉に黙って耳を傾けていたアスベルは、堪らなくなってヒューバートの直ぐ傍まで移動し、
その身体を抱きしめた。
何よりも落ち着くと感じる温もりに、ヒューバートは一瞬言葉を失う。



「……兄さんは勝手です。意地悪ばかりして」

「そうだよな、ごめんな」

「謝っても、許しません。ぼくをこんな風にした責任は、きちんと取って貰いますから」



ヒューバートは控えめにアスベルの背中へと腕を回し、自らも抱きついた。











>最終的に猫の日とか関係なくなってるし、行為描写も尻切れで申し訳ないです。
11.02.23