※注意
兄さんが浮気常習犯という、設定のお話です。
最低な兄さんだと言う点を踏まえて、大丈夫そうな方のみどうぞ。








ドアの開閉する音が静かな室内に響いた。誰が入ってきたかなんて、目を開かずとも分かる。だからぼくはドアに背を向けたまま無視をした。その人物は暫くごそごそと物音を立てていたが、その音もピタリと止んだ。
静寂が再び室内を支配して、何だか居心地が悪い。


「ヒューバート、起きてるんだろ?」

「……寝てます」

「うそつけ」


絶対の確信を持った言葉が投げかけられると同時に、ぼくの横たわるベッドが軋む。
原因は兄さんが乗り上がって来たから。あっという間に組み敷かれて、仕方なく目の前の兄さんの顔を見る。
心なしかとろんとして見えるのは……お酒か?
アルコールの匂いよりも、はるかに強い香水が邪魔をして分からない。
どちらにしろ不快な匂いである事には変わらないから、ジッと兄さんを睨んでおく。
しかし兄さんはぼくの視線もお構いなしで、覆い被さるように倒れ込んできた。途端に強くなる匂い。
そして、胸への圧迫感。


「……ッ兄さん! いい加減にして下さい」

「俺、やっぱり年上は駄目だ。苦手だ……」

「……はい?」


今日の相手は年上だったのか。なるほど、このキツイ香水の匂いにも頷ける。それから飲酒に関しても。
悪い相手だったのであろう、うちの兄さんに変な遊びを教えてくれて……。
考える程に苛々が増していく。
兄さんも兄さんだ、未成年の飲酒なんて決して許される行為では無いのに、流されて……酔わされて。


「なぁ、聞いてくれよ。ヒューバートぉ」

「……愚痴なんて聞きたくないですよ」

「じゃあ聞かなくても良いから、慰めてくれ」

「……」


呆れた。勝手に浮気しておいて何を言っているのか。
ため息すら出てこない。

覆い被さったままの兄さんの肩を押して、無理に互いの体の間に隙間を作った。
べりりっと剥がれる様に離れた兄さんは、自らの腕で体を支えてくれた。おかげでぼくは苦しさから開放され、
兄さんの姿をじっくりと見ることが出来る。
お酒のせいで赤く染まった頬へと手を伸ばして、その大きく開かれた服から覗く鎖骨の少し上部に、
あってはならない色を見つけて手が止まる。どう見たってこれは、キスマークだ……。


「……兄さん、これ」

「ん? ……ああ、これか? 駄目だって言ったんだけどな……しつこくて」


自分で分かる位に声が震えている。
兄さんが酔っていてくれて助かった。こんなみっともない所、見られたくは無い。
中途半端に伸ばしたままだった手を、頬ではなく首筋に咲く赤へと伸ばす。体温の上がっている兄さんの肌は少しだけ熱かった。
触れた事でぼくの言わんとしているそれに、兄さんの方も気付いたか、思い出したかしたらしい。
困った様に笑って言葉では迷惑そうなくせに、口調は全然……嫌そうではなかった。
愛猫に噛まれた飼い主みたいな甘さで……、平然とぼくの胸を抉る。
堪らなくなって兄さんから視線を逸らした。目の前の酔っ払いはそれをどう感じたのか、再び覆い被さって来た。


「嫌…です、兄さ……」

しかし、ぼくが嫌だと抵抗する寄り先に、耳元に唇を寄せられて――


「……なぁ。コレ、消してくれないか?」


信じられない一言を囁かれた。
消す……? ぼくが?
じくじくと痛む胸に、塩でも塗られているような気分だ。悔しくて暫く言葉を失う。


「……。お断りします、自業自得でしょう?」

「嫌だ。ヒューバートのモノじゃない俺なんて……俺じゃない」

「――っ…」


相手はどうせ明日の朝には何を言ったか、何をしたか……覚えていない。そんな事は分かっている。
自分は、泥酔した人間の言葉に振り回されている。分かっている。
ぼくだって、本心ではそんな事を言う位なら、最初から浮気なんてしなければ良いのに、と……そう思うのに。こんな最低な人が、血の繋がった兄だなんて本当に恥ずかしいのに……。
どうして、こんなにも嬉しいと思ってしまうんだ。どうして、こんな人を好きになってしまったんだ――。


「……ぼくも酔っているんですかね」

「何が?」

「いいえ、何でもないです」


きっとこのアルコールの匂いに酔ったんだ。そう言い聞かせて、兄さんを引き寄せる。
そして、無防備な首筋に噛み付くようにキスをした。
痛みに引きつった兄さんの声が聞こえてくるが、優しくしてやるつもりは初めから無い。

浮気相手だった女性が残した痕の上から更に濃い華を咲かせて、他にも数箇所朱を散らしてやった。


首筋に所有の証のキスをする...




念願の浮気ベルが書けて完全に自己満足です
すみませ…^p^

10.04.26