ベッドで微睡んでいるとヒューバートが部屋の前まで来たのが、近付く小さな足音で分かった。
直ぐに入ってくるだろうと思って目を瞑ったままでいたら、部屋に入るにしては随分長い間を置いてから、
扉の開く音と、俺を呼ぶ心地良い声が耳に届く。余りの心地よさに眠気が強くなって、反応が遅れた。
起きなくてはと思うより先に、寝ていると判断したらしい弟の声が続いて……寝たフリしているのも良いかな、と少しの下心が顔を覗かせた。

ドア付近から更にベッドの傍へと近付く気配。眠っている俺を気遣っているのか、静かな動作には音がない。
そんな小さな気遣いが嬉しくて、表情が緩みそうになった。……危ない、危ない。
その後ヒューバートは、甲斐甲斐しく毛布を掛けてくれて、俺の身体は暖かい布に包まれた。
このまま本当に寝てしまおうかと思う位に、心地良かった。


「……?」


だけど、ヒューバートの気配がいつまで経っても離れない。それどころかベッドに手が置かれて──。
え、待ってくれ……これはどう言うことなんだと、我慢できずに薄目をあければ、目の前にヒューバートの顔。
そこで漸く思い出したのは以前の約束。まさか……いま、する気なんだろうか?
目の前の緊張しきった表情を見ていたら、俺の方まで緊張してきた。跳ね上がる心音が伝わって、狸寝入りがバレてしまわないかと身体に変な力が入る。だけど、同時にこの状況を楽しんで居るのも事実で……。
唇が触れたらヒューバートを抱き締めてやろう、吃驚する姿を想像してちょっと気が抜けた。

その気の緩みが伝わったのか、ヒューバートが離れた。それも凄い勢いで。
何だか傷付いた。

(そんなに俺とキスするのは嫌なことなのか……)

そんな事を考えていたら、突然ヒューバートに手を取られた。毛布の中から優しく出されて外気に触れる。
驚いて変に力が入ってしまったけど、ヒューバートは気づかなかったみたいだ。
そして、手の甲に触れる柔らかなもの。
あぁ、キスされたんだなって思うと同時に、胸の奥から広がる暖かい何か。
無理矢理言葉にするなら”愛しい”だとか、そんな所か?そんな在り来りな言葉で形容は出来ないけど。


「……ヒューバート」

「っに、兄さん?! あ、あのこれは……ぅわッ!」


堪らなくなって、名前を呼んだ。
勿論、閉じたままだった目を開けて。
寝ていたと思い込んでいた俺が急に起きて吃驚したのか、想像通りの驚いた顔と、言い訳を探して泳ぐ瞳。慌てて触れたままの手を離そうとするから、逆に握って引っ張ってやった。
手順は違ったけど、抱き締める事に成功。


「捕まえた……」

「何を言っているんですかっ、離して下さい……!」

「やだ……。それにしても、寝込みを襲うなんて良い趣味だな、ヒューバート」


からかいを含ませて尋ねてやれば、面白いくらいに頬から耳までを真っ赤にして言葉を無くすヒューバート。
心なしか涙目になってる気がする。こんな表情されて苛めないなんて無理な話だ。
そっと薄いピンクに染まった耳元へ顔を近付ける。


「手じゃなくて、ちゃんと口にして欲しかったな……」

「……なっ、兄さん、まさか……起きていたんですか?!」


弾かれたように此方を見てくるヒューバートに曖昧な笑みを浮かべて返す。遠回しに肯定したのだが、
ちゃんと伝わったみたいだ。唇を戦慄かせて可愛いったら無い。ぎゅっと抱き締める腕に力を籠める。


「あ、悪趣味ですよ……っ!」

「お前には言われたくない……」


痛いところを突かれて口ごもるヒューバートの唇を塞いで黙らせた。



   ***




「っは、ァ……ン、」

「ヒューバート、可愛い……」


それから嫌がるヒューバートを押さえ込んで、半ば無理矢理行為に及んだ。…と、言っても元から敏感だから、少し刺激を与えれば簡単に大人しくなる。俺の下で快感に震える身体を撫でて、キスして……。
好き勝手に嬲る頃には、快感に染まりきった瞳が俺を見上げていた。
目元に涙が溜まり、視点がぼんやりと定まらない瞳で、たぶん俺を見つめてくれてる。
俺は愛撫の手を休めてそっと微笑みかけた。途端に顔を赤らめて視線の焦点が逸らされる。
……なんだ、まだ理性が残ってたみたいだ。


「なぁ、普段と少し違う体勢でヤってみないか?」

「……違うって?」

「良いから。……ほら、ちょっとうつ伏せになれよ」


訝しげな表情を浮かべるヒューバートを宥めながら、さっさと身体を反転させベッドにうつ伏せにさせた。
途端に真っ白な、それでいて快感にほんのり染まった背中が視界に入って、思わずごくりと喉をならした。
肩越しに此方を振り返る様すら色気があって……。
何より、向けられる不安げな表情に、俺の胸の何処かにあったらしい支配欲が満たされる感覚と、
まだ足りないと渇く想いがぐちゃぐちゃに混ざり合う。
自分から行動に移しておいて情けない話だけど、お陰で元から強い訳じゃない俺の理性は簡単に陥落した。


「……ごめん、ヒューバート。俺……もう我慢できない」

「……は? っ、ちょ……やっ、あっぁぁ!」


ヒューバートの先走りのお陰で、全く濡れていない訳では無い。
しかし、慣らしていない入口は、俺のを受け止めるにはまだ充分ではない。少しの侵入すら許してくれずに、
ギチリと締め付けられて息が詰まる。
ヒューバートの苦しそうな声も辛くて……覆い被さる様にして抱き締めた。汗ばむ膚同士が触れ合う。


「…っく! ヒューバート……大丈夫、だから。力抜けって」

「っ痛、ァ……はっ…ぁっ、兄さ…、抜いて…ッ」


痛みに浅く繰り返される呼吸。一向に緩まない締め付けは、侵入を妨げ追い出そうとするように蠢く癖に、
入口は離すまいと銜え込んで……。ヒューバートの方から意図的に力を抜いて貰うのは難しそうだ。
仕方ないから、ベッドに付いていた片手でヒューバート自身に軽く触れる。
痛みで少し元気の無くなっていたそこの熱を思い出させる様に優しく扱いていく。


「ふぁっ…あ、……ぅあぁッ?!」

「……ッく」


吐息が抜けるような甘い声が零れると同時に、一瞬ヒューバートの力が抜けて締め付けが弱まった。
そのタイミングを逃さずにグッと腰を入れれば、何とか根元までヒューバートの中に繋がれた。
柔らかな腸壁にきつく締め付けられて熱が増す。繋がったそこから溶け出しそうに熱くて……。
今すぐにでも無茶苦茶に突き上げて犯したいのを我慢して、ヒューバートの呼吸が落ち着くのを待った。
細い肩が跳ねるように上下して、痛みや異物感に玉のような汗が背中に浮かんでいる。


「ヒューバート……そろそろ良いか?」

「……やっ、にいさ…ッ、まだ……っひぁ、」


とは言われても、俺ももう限界だった。焦るヒューバートの声を聞き流し、深くまで挿入させていたそれを一度ギリギリまで引き抜いて、間髪入れずに奥まで穿つ。
何度も身体を重ねているから、ヒューバートが最も感じる箇所は解っている。

一瞬鎮まった支配欲がざわめき出して、乱暴に奥を突き上げた。
その度に上がる嬌声は、次第に甘さが交ざって視覚だけでなく聴覚まで煽ってくる。


「っ、ぁっ……あぁっ!」

「…はぁっ、……ヒューバート、今のお前、凄っ…エロい……」


こんな獣みたいな体勢だからだろうか。相手を支配して好き勝手に鳴かす事に普段以上に興奮した。
浮かぶ肩甲骨や、しなやかな背筋、伝い流れる汗に堪らなくなる程煽られて……噛みつく様に口付けた。


「…ヒューバート、好きだ……愛してる」



背中に欲望のキスをする...





10.04.21