今夜の夕飯は兄の好きなカレー。朝、起き出すなり引っ付いてきてリクエストされた。食べたいと言われて予定を急遽変更するなんて、我ながら甘すぎだとは…思うけれど。
最近はカレーを作ってなかったこともあって、あっさり許可を下してしまったのだ。
ヒューバートは材料の野菜を煮込みながら、帰りに買って来たルーの箱を手にする。慣れた手つきで箱からルーを取り出して、一時動きを止めた。そして直ぐに箱の表面に記載された文字を改めて見直す。
…見間違いでは無い。


「しまった…、間違えた。」


手にした箱に記載されている文字は何度見ても、どう見ても「辛口」。兄の好みな味とは正反対の言葉に、流石にこれを使うことは出来なかった。手間ではあるが、もう一度買出しに行かなくてはならない。
半分ほど顔を覗かせていたルーを箱にしまって、鍋の火を止める。そして、エプロンを外そうとしたところで、玄関の方から慌しい声が聞こえてくる。どうやら兄が帰宅したようだ。そんなに何度も名前を呼ばなくても聞こえているのに…、ヒューバートは外したエプロンをダイニングの椅子の背に掛けて、学生鞄の中から財布を引っ張り出す。その頃には、兄の声は扉を挟んで直ぐの所まで近づいてきていた。


「ヒューバート…っ! 今日、弟の日だって…知ってたか?」


勢いのままに開かれた扉が立てた大きな音が、背後からヒューバートを襲った。無視を決め込んでいたが、いい加減限界だった。財布を握る力が強くなるのを感じつつ、帰宅したばかりのアスベルを振り返った途端、その兄に抱きしめられていた。
朝の二の舞だ。高校生にもなった兄弟が朝と夕と…序に言うなら昼もだ。とにかく、顔を合わせるたびにハグするのは、果たして正常なのだろうか。此処がスキンシップの盛んな欧米諸国なら話は…まぁ、別なのだろう。でも、此処は日本だ。挨拶代わりのハグが一般的とは言いがたい。
少なくとも自分は兄以外とこうしてハグする機会なんて…一度だってなかった訳で。
自分より少しだけ長身な兄に抱きしめられながら、情けない方向へと思考が転がっていく内に、背中に回されたアスベルの腕の力が強まって来たのを感じた。流石に苦しくなってきて声を上げる。


「…に、兄さん…苦し、離れて下さい…ッ、」

「あっ、すまない…」

「……で、弟の日がどうしたんです?」


言いかけた文句はこの際諦めよう。それよりも抱きしめられる間際に聞こえた、弟の日という聞き慣れない名称の方にヒューバートの気持ちが流れていた。ずれた眼鏡の位置を正しながら、興奮のせいで高揚した声で話すアスベルの言葉に耳を傾ける。
内容を要約するとこう言う事の様だ。親友であるリチャードと帰宅中に交わした何気ない会話の中で、
今日が弟の日であるとの情報を得たらしい。そして、その興奮を引きずったまま家に飛び込んできて、近所迷惑も考えずに盛大にドアを開け放った後、自分に飛びついて来た…と。
全容を知ってしまえば実に下らない。ヒューバートの興味が一気に離れていく。


「…ですから、それがどうしたと…」

「母の日は母さんに感謝してお礼をする日だろ?なら弟の日は弟を可愛がる日だと思わないか?」

「兄さん、言いたい事は何となく理解できますが、話の前後が繋がっていません」


母の日や父の日が両親に感謝する日だと例に上げるのなら、弟の日だって弟に感謝する日ではないのか。なぜ可愛がるに繋げるのだ…。確かに、弟は年下だし、感謝とかお礼するって言うよりも可愛がる方が自然ではあるけれど…。
そんな事を考えて居たからだろうか、アスベルの起こした次の行動にヒューバートの意識は追いつかなかった。急に財布を持った腕を引かれて、リビングのソファまで移動する。先ほどまでヒューバート一人だった事もあって、明かりの灯っていないリビングは薄暗く、窓から零れこんでくる街灯と、ひと気のあったキッチンに灯っている明かりだけが唯一の光源だった。
暗がりのせいでぼんやりとした輪郭の兄の表情を伺おうとして、それは叶わなかった。掴んでいた手を離され、そのまま背後にあったソファに押し倒されたのだ。何もかも突然すぎて反応が遅れ、固まっているヒューバートを尻目に、アスベルは邪魔な鞄と制服の上着を足元に放った。
最後に首に巻いたマフラーを解こうと手を掛けたアスベルの視界の端に、漸く現状を理解し慌てて身体を起こそうとするヒューバートの姿が映る。


「ヒューバート、誰が起きて良いって言ったんだ?」


起き上がりかけた身体を押さえ込むようにして、アスベル自身もソファへ乗り上げ弟を見下ろす。再びソファに身体を横たえる事になったヒューバートは、うっすらと兄の言う「可愛がる」の意味を理解し始めた。
まさか、まさか…。
自分を見下ろす兄を睨み上げながら、今後の展開を想像して焦りを感じた。とにかく身の安全を…本能的な衝動に突き動かされて、ヒューバートは此処で初めて抵抗らしい抵抗を見せた。


「兄さん、どういうつもりですか…っ!」

「どうって…可愛がるって言っただろ?ヒューバートは俺の可愛い弟だから」

「意味が…分からないですっ、」

「ヒューバートは俺のだ…って、意味だよ。良いから、おとなしくしてろって」


身体を押し返そうとしてくるヒューバートの腕を掴んで、押さえ込む。このまま事に及ぶことも…可能だが、些か邪魔だ。アスベルは中途半端に解かれ、首に掛かったままだったマフラーをするりと首から外すと、抵抗を続けるヒューバートの両腕を一纏めにして拘束した。


「…ちょっ、兄さん…ッ、これ…解いて下さい!」

「駄目だ。抵抗したヒューバートが悪い」


強い力で腕を掴まれ、あれよあれよという間に腕の自由は、兄の首もとを冷気から守っていたマフラーに奪われた。毛糸で編まれたマフラーという、拘束には一見適さなそうな素材であるにも関わらず、強く結ばれたおかげか全く解ける気配が無い。
それでもヒューバートは僅かな望みと意地で、手をがむしゃらに動かして軟い拘束から逃れようと試み続けた。手首とマフラーが擦れても痛みこそ無いが、この状態から逃れる妨げになる手枷に奥歯をかみ締める。解けと兄に凄んで見せても、当然ながら全く効果は無い。急に押し倒されて抵抗しない人間が居るわけ無いだろう。どこまでも自分本位な兄の言葉に腹が立った。


「そうだ、拘束ついでに…」


手首を拘束され抵抗するヒューバートの姿は、アスベルの欲望を刺激した。前々から一度試してみたかったシチュエーション、でも何かが足りない気がする。アスベルはその足りない何かを考えて、思いついた考えにはっと表情を変えた。
また何か良からぬ考えに思い至ったのかと、ヒューバートが肩を震わせる中、アスベルは自身のズボンのポケットを弄る。目的の物は直ぐに指先に触れた。アスベルは朝ヒューバートに持たされたまま、使わず仕舞いだったハンカチをポケットから引っ張り出した。使いやすいように丁寧に畳まれたそれを一度広げ、鉢巻き状にたたみ直す。
そして、いまだ手首に絡まるマフラーと格闘している弟の眼鏡を奪って、その視界を覆うようにハンカチを巻きつけると、後ろで端と端同士を結んだ。

突然視界が闇一色に染まり、ヒューバートは抵抗を止めた。両手の自由だけでなく視界すら奪われて、言い知れぬ不安が襲う。今目の前に居るであろう兄はどんな表情をしているのか、次はどんな事をしてくるのか…。何も分からない。恐怖と、良い様にされっぱなしの現状に、身体が震えた。
だが今怯えを見せると、兄はどんどん調子に乗りそうで。出来る限り強がり、唯一頼りになる聴力を使って兄の動きを探る。少し離れた位置で小さな音がして。さっき奪われた眼鏡でも避けてくれたのだろうか。
その音を捉えて直ぐ、ヒューバートの上の気配が動くのを感じて、自然と身体が強張る。


「そんなに怯えなくても…今日は可愛がるって言ったろ?」

「この状態を見て、兄さんがぼくを可愛がってるんだと答える人は居ないと思います」


どう見たって、言い方は悪いが強姦だろう。拘束して目隠しまでして。怯える相手を組み敷いて…。これで可愛がっているのだ等と、よく言えたものだ。
不意にシャツが捲られ、腹部が外気に触れた。3月になったとはいえ日が落ちればまだまだ冷え込む、ヒューバートは寒さに身体を震わせた。

寒さと、恐らく緊張の両方に震えるヒューバートの身体を、アスベルは普段の倍くらい眺めて焦らした。男の肌と思えない白くきめ細かい肌、適度についた腹筋には思わずため息が零れてしまいそうだ。
吸い込まれる様にしてその腹部に触れ、擽るように撫でた。指先の皮膚に触れる柔肌は、見た目どおりの感触で、上辺を撫でる手つきをねっとりと這わせるそれに変化させた。


「……っ、ぁっ!」

「どうした、まだお腹撫でただけだぞ?」


もっとも重要な五感の一つを奪われ、その埋め合わせをしようと他の感覚器官が敏感になる中、触覚も例には漏れなかった様で。アスベルの指が腹部に触れ、ゆっくりと撫でられる手つきをありありと感じる。それはジワリとヒューバートの中に広がって、むず痒さと共に普段とは異なった快感をもたらす。
腹部を撫でられただけでこの有様。これで、普段の様に行為に及ばれたら自分はどうなってしまうのか…。考えただけで怖い。
ゆるゆると腹を行き来していた手が一度離れ、ほっとする。しかしそれもつかの間、次はどこを、いつ触ってくるか分からない。


「…兄…さん、もう…」

「もう…何だ?まだ何もしてない」

「嫌…もう、嫌です…っ、」


情けないくらい震えるヒューバートの声を遮って、触れても居ないのに硬くなって存在を主張している胸の突起を押しつぶした。上がる嬌声は普段の声音よりも随分と甘い。目隠しの効果に驚きながら、アスベルはヒューバートの反応を伺い、赤みを帯びてツンと尖った突起を弄り続ける。嫌だという割に身体は随分と素直だ。そういう身体に仕向けたのは、他でも無い自分なのだが。


「ん…っ、兄さん…、」

「どうだ、いつもより感じるか?」

「…っく、…っン」


何もかも兄の思うとおりに事が運ぶのは癪で、せめてと唇を噛んで声を抑える。それでも、自然と上がる息、下半身に集まる熱は抑えようが無い。それらを全て気付いていて、敢えてヒューバートには答えられない問いをぶつけて、反応を楽しむアスベル。聞こえてくる小さな笑い声に、顔にまで熱が集まる。きっと目視出来る程度には、赤みを帯びているだろう自分の頬を想像して、悔しさに唇をかみ締める強さが増した。


「仕方ない、口で答えて貰えないならこっちに聞くしか無いな」

「…な…に、あっァ…だめ…ですっ、」

「駄目?何がどう駄目なんだ?」


弄っていた胸から手を離して、既に反応を示してズボンの布を持ち上げるヒューバート自身に触れた。そこは、布越しでも分かる程に固くなって脈打っていた。最も敏感な場所に触れられた事で、跳ね上がるヒューバートの身体を宥めるように胸元に口付ける。
しかし、その刺激すら敏感になったヒューバートの身体には強く、歯がゆい快感となる。ズボンの上から自身を嬲る度に、陸に上げられた魚みたいに身体を跳ねさせて声を上げた。
絶えず襲ってくる快感の波に飲まれそうなヒューバートは、とうとう嬌声を抑えることも出来なくなっていた。かみ締めた唇の合間から吐息に混ざって、自分の声とは認めたくないような声が上がる。強すぎる快感から開放されたい一心で、下半身に触れる兄の腕を蹴ってみた。…が、あっさりと払われ、余計に強い刺激を与えられるだけだった。


「ヒューバート、そんなに酷くされたいのか?」

「あっ、あぁ…ッ、」


もう、十分酷い仕打ちをしているくせに…。
のど元まで出てきた悪態は、意味を成さないただの嬌声に阻まれた。ズボンの内部で成長したそれからの先走りのせいか、ぬるぬるとすべりが良くなったように感じる。アスベルはヒューバートの部屋着のズボンを下着ごと一気にずらした。脱がす際に下着の布が擦れ、それが今までとは違った刺激を与え、ヒューバートは悲鳴の様な喘ぎを零した。


「ひぁ…ッ?!…ぁ、あっ」

「凄いな、もうこんなに濡れて…。」

「い、言わないで…下さ…っ」


脱がせたズボンと下着を床に落として、数々の刺激にゆるく頭を擡げ、先端の窪みから透明の雫をこぼすヒューバート自身を観察する。目隠しをされていても下半身に視線を向けられている気配は分かるのか、ヒューバートはアスベルの視線から隠すように身じろいで膝を擦り合わせていた。ヒューバートの顔を見れば、頬だけでなく耳や首までうっすらと桃色に染まっていた。

もう暫く羞恥に恥じるこの姿を眺めて居たい気持ちもあるが、アスベル自身もそろそろ限界だった。もじもじと恥じる弟を眺めながら自分の中指へ舌を這わす。
弟の狭い内部を傷つけてしまわないように丁寧に濡らしてから、ヒューバートの片足をソファの外へ落とす。片足だけ投げ出される不安定な体勢に怯えている隙に、もう片方の膝裏を持ち上げ肩に担いだ。強制的に開脚させられ焦る声を無視して濡した指を、まだきつく閉ざされた入り口へと宛がった。
進入を拒むように強張る入り口を優しく刺激して、根元まで銜え込ませる。異物感にヒューバートの足が震え、内壁を擦られる刺激に身体を反らせた。ぎゅうっと、まるで食いちぎるつもりではないかと思うほどの締め付けで、中指を熱い肉壁が包む。


「ぁっ…く、…兄さ…」

「ヒューバート、大丈夫だから、力抜けって…」


抜けと言っても、それが簡単な事では無いことは分かっている。ここは無理矢理にでもヒューバートの弱い箇所を刺激して…。傷つけないように、それだけは留意しているつもりでも、高ぶる熱にはアスベルも逆らえない。内壁の締め付けが強いほどに、此処に己自身を挿入した時の事を考えてしまう。
想像が更に欲を煽って、煽られた欲に素直な若い身体は焦りを生む。早く早くと焦るせいで中を解す指の動きが乱暴になっている事に気付けなかった。




目を開けているのに眼前に広がるのは暗闇、与えられる刺激はどれも兄からの物なのに。どうしても熱を感じない。無機物な冷たい、ただの強すぎる快感。怖いと思った。容赦なく与えられる刺激にも、こんな冷たい刺激に反応する浅ましい身体にも…何より、兄を感じられない事が一番恐怖だった。


「…もう…嫌、です…っ、うっ…」

「……ヒューバート?」


このまま最後まで抱かれるのだろうか。気付いたら目元が熱く、そして少しの痛みを帯びて涙がにじむ。目元を覆うハンカチがそれを吸い込んで、染みの様に色を変えていった。
急にヒューバートの声音が変わった事に気付いて顔を上げる。そして、ハンカチが濡れている事に気付いて、アスベルも流石に動揺した。悪戯の延長だったそれで、弟を泣かせたのだから当然だ。慌てて指を引き抜きヒューバートの身体を抱きしめる。


「どうした、ヒューバート」

「…っ、にぃさん…が、見えな…くて、恐い…」


ぽんぽんと子供をあやす手つきでヒューバートの背中を撫でてやる。ヒューバートは拘束された手をもぞりと動かして、抱き付こうとするような仕草を見せた。もちろん、自由を奪ったままのマフラーに阻まれてそれは叶わない。アスベルは少しだけ身体を離して、マフラーの拘束を解いてやる。すると待っていたと言う様に弟の腕が背中に回って。随分と恐がらせてしまっていたのだと、自覚した。


「……ぁ、…ごめん、ヒューバート。ハンカチも解くな?」


驚かせてしまわないように、一声掛けてからハンカチも解いてやる。暗闇からだと、薄明かり程度でも眩しく感じる。ヒューバートは少し目を細めて、随分と見ていなかったと感じるアスベルの表情を見た。情けない顔で自分を見つめるのが視界に入って、思わず笑ってしまった。そんな顔をされたら、怒るに怒れない。何より、兄の顔を見ただけで、今までの不安は嘘のように影を潜め、欠片も感じなくなっていた。変わりに胸中に広がる安心感に、ヒューバートは自然と素直にアスベルの身体に抱きついていた。


「…良かった、兄さんだ……ンっ、」

「ヒューバート……っ」


同じく強い力で兄に抱きしめられ、口付けられる。どちらからとも無く唇を開いて舌を絡める。お互いに夢中で唇を貪った。どちらの物ともつかない唾液が口の端から零れ、顎のラインを伝ってソファに落ちる。アスベルの背中に回された腕が、ぽんと力なく刺激を与えるのを合図に重なり合わせていた顔を離した。
呼吸を整えるヒューバートの短い髪の毛を撫でながら、アスベルは名残惜しさに触れるだけの口付けを落とす。涙の溜まった目じりに始まり、鼻先、額、頬…最後に唇に触れる。その頃にはヒューバートの荒かった呼吸も整っていた。


「ヒューバート、今度こそ…優しくする。……良いか?」

「…駄目って言っても続けるんでしょう?それに…ぼくも限界です。だから…その、」


兄さんをぼくに下さい―…。
最後の一言は耳元で囁かれた。本当に小さな声でのそれは、アスベルの最後の理性を崩すには十分すぎた。



    ***



結局我慢できずに中に吐き出されたアスベルの欲の処理をして、汚れた辺りの後始末まで終えた頃にはとっくに日は沈み、店も閉まった時間。コンビニに行けばカレーのルーくらい売っているだろうが、スーパーに比べると値が張る。家計を預かるヒューバートを渋らせるには十分だ。第一、アスベルがこんな事を仕出かさなければ今頃彼の大好きな甘口のカレーが出来上がっていた訳で。
正直もう料理をするとかそう言う気分でもないが、鍋に入れたままの野菜を朝まで放置したら確実に無駄にしてしまうし、アスベルに調理を頼むことも…憚られる。何が出来上がってくるか分かったものではない。
仕方ないとため息を吐いてから、痛む腰を引きずってキッチンに立つ。アスベルなりに責任を感じているのだろうか、ヒューバートの腰を労わる様に寄り添ってくれたおかげで幾分か楽だ。
コンロに火をつけて、野菜たちが十分に煮込まれたのを確認してから、ルーの箱を手にする。
あの、辛口のルーを。
近くで調理を見ていたアスベルも気付いたようだ。「あ…」と、情けない声が聞こえるが無視。


「ヒューバート…それ、」

「何か、問題でも?」

「…なんでも、ない…です」


恐る恐ると先ほどの非道っぷりが嘘のような兄の声に、笑顔で答えた。苛立ちを体現するように些か乱暴にルーを砕く。ビクリと肩を震わすアスベルを氷点下の視線で射抜いてから、粉々と表現するのが正しいまでに砕かれたルーを鍋に投入。ぐるりとおたまでルーを混ぜ込む。

それから暫く煮詰め、辛口のカレーをドンと、テーブルに着席していたアスベルの前に置いた。もちろん水は用意しない。瞳の全く笑っていない笑顔を浮かべた弟の気迫に圧され、眼前に並ぶ皿に山盛り盛られたカレーを見る。心なしかライスが少ないのは…気のせいだと思いたい。
向かいに座ったヒューバートが頂きます、と律儀に呟いてから食べ出すのを見て。アスベルも慌ててお決まりの挨拶を呟いて、一口…。


「ヒューバート…、このカレー…辛い」

「…辛い?気のせいでしょう?残さないで下さいね、兄さんの為に作ったんですから。」

「……うぅ」







>最後までSベルを貫けない、うちのヘタレベル^^


10.03.07