ヒューバートはベッドの上で寝返りをうった。
もう何度目になるかも分からない。身体は度重なった戦闘でくたくただと言うのに、頭だけは冴えきっていた。
とどのつまり眠れないのだ。
両隣から兄と陛下の小さな寝息が聞こえてくるだけの静寂。
そんな中、ヒューバートは眼前に広がる天井を眺める。
暗闇と弱い視力のせいで良くは見えない。ぼんやりと家具や室内の輪郭が浮かび上がるだけだった。
とにかく、瞳を開いたままでは眠れるものも眠れなくなる。
ヒューバートは開いていた瞳を静かに閉じて、再び眠ろうと試みた。
「……」
しかし、眠気は一向に訪れない。
今は一体何時なのか、少しでも眠らなければ翌日に支障が出る。
ヒューバートの真面目な性格故の焦りは、どんどん膨らんでいった。再び寝返りをうつ。
「……っ!」
意識などしなかったのだが、向いた方向は兄の眠るベッドの方だった。
そしてアスベルもまた、タイミング良くヒューバートの方へ寝返りをうった。
突如視界に飛び込んできた兄の寝顔に、ヒューバートの心臓が跳ね上がる。
ぼんやりとして良く見えない目でも充分に分かる程に、アスベルの寝顔は色っぽかった。
寝返りのタイミングが合って、単純に驚いた事だけが原因ではない心拍数の増加に、ヒューバートは狼狽えた。
(兄さんの寝顔を見て、欲情するだなんて……!)
自覚すると同時に、罪悪感やら情けないやらで頭を抱えたくなった。
しかし、若い身体に一度点った欲を抑えるのは、容易ではない。
ヒューバートは堪えきれずに、そろりと自分の下半身へと手を伸ばした。
寝間着として身に付けていたズボンの中に手を滑り込ませ、下着の上から自身に触れる。
まだ反応らしい反応はしていないものの、指が触れると期待に震えるようだった。
ヒューバートはぼやける視界に兄を確りと捉えたまま、握った自身をそっと扱き上げた。
「っ、ン……」
軽く撫でただけで背筋を這い上がるような快感に、鼻から抜けるように声が漏れた。
ヒューバートは、もう片方の手で口を押さえる。
この部屋に居るのは自分だけではない。寝ているとはいえ、皆いるのだ。
「……ん、っ、……ぁ」
声が漏れないように留意しながら、再び下着の上から自身を撫でる。
この、いつ誰が起き出すか分からない状況に興奮を煽られ、ヒューバートのそれは簡単に勃ち上がった。
滲む先走りが下着を濡らし、手を上下に動かす度にねとっとした不快感と、もどかしい快感がヒューバートを襲う。
ふと、無意識の内に閉じられていた瞳を開く。もう一度、兄の姿を見たいと思ったのだ。
アスベルは相変わらずヒューバートの方へ体を向けていた。
何も知らずに眠る兄をおかずにしているという背徳感に、ジワリと涙が浮かんだ。
耐えきれず下着の中へ手を滑り込ませ、直に自身に触れる。
滴る程の先走りが指に絡むのも気にせず、いつも兄がシてくれるのを思い出しながら扱く。
「はぁ……はっ、ぁ……ッ、」
自分の手で行う行為は、無意識に生まれる快感をセーブする。
ゆるゆると扱く手は幾らアスベルの動作を真似ても、生まれる快感は違うものだ。
もっと、もっとと思うのに、いつまでも満たされない。物足りない。
瞳にうっすらと溜まった涙が零れ落ちて、シーツを濡らす。
「ン、っ! にい、さ……」
ヒューバート本人全く意識せずに、兄を呼んでいた。
中途半端な快感の狭間をさ迷ったまま、イけない身体を持て余すつらさに助けを求めるように。
「何してるんだ、ヒューバート」
「……!」
行為に集中しきっていた意識が、急速に現実に引き戻された。
サッと血の気が引くのを感じながらも、今まで下着の中に入れていた手を慌てて引っ込める。
恐る恐る瞳を開ければ、此方を見つめるアスベルと目が合った。
言葉には出さないながらも、全て解っていると言いたげな様子だ。
いつから見られていたのか――。
背中に嫌な汗をかきながら、暫く見詰め合う。
どの様に言い訳しようと、慌てるヒューバートを横目にアスベルは起き上がった。
そしてヒューバートの横になっているベッドに近づく。
「ま、待って! 兄さん、来ないでくださ……」
焦って動揺している間に、どんどん状況が悪くなっている。
漸く自分の置かれた状況に気づいたヒューバートは、逃げるように身体を起こしかけた。
しかし、簡単にアスベルに捕まってしまう。
二人分の体重を受け止めたベッドが鳴く。覆いかぶさる兄を見上げ、ヒューバートは顔ごと視線を逸らした。
「何してたんだよ」
「べ、べつに。何も」
「へぇ? なら、これは何だよ」
閉じられたヒューバートの脚を割り開くようにして膝を入れたアスベルは、あろう事か股間を膝で押しつぶすように刺激した。
強めの刺激でも、掛け布の上からで痛みは殆ど無い。
微かな痛みは寧ろ、反応したヒューバート自身には強すぎる快感になる。
抵抗しようと入っていた力が一気に抜け落ち、容赦ない仕打ちに悶える事しか出来ない。
「っく、やだ……兄さ、やめ……」
「何してたか答えたら止めてやるよ」
待ち望んだ兄から与えられる刺激に悦ぶ身体とは裏腹に、ヒューバートの意識は羞恥に抵抗を見せることを止めなかった。
嫌々と弱弱しく首を横に振り、止めるようにと懇願する。
素直じゃないヒューバートの反応に、アスベルはすっと瞳を細めて見下ろす。
膝に当たるヒューバートのそれは、芯を持ち簡単に達してしまいそうだというのに、一向に口を開く気配は無い。
「ほら、早く言えよ、ヒューバート」
このまま、じわじわ追い詰めていくのも面白い。言葉では急かしながら、急激に刺激を弱めてやった。
喘ぎ声を抑えることに必死だったヒューバートの瞳が揺れる。
それが物足りなさを体現しているようで、本当に素直じゃないとアスベルには思えた。
「……ひ、ひとりで……シて、ました」
視線を泳がせ抽象的な表現をするヒューバートに、アスベルは物足りなさを感じた。
自分の下で羞恥に震える弟の姿は、どうみても「苛めて下さい」と言っている様なものだ。
つい、からかいたくなる。
「何を?」
間髪入れずに言い直しを要求すれば、ヒューバートは真っ直ぐにアスベルを見つめた。
その視線は信じられないと言っているようで、思わず笑ってしまう。
止んでいた膝での刺激を再開させ、ぐるりと円を描くように膝を動かす。
「ヒューバートだってもう子供じゃないんだから、言えるだろ?」
「あっ、やぁッ……!」
アスベルの冷たい言葉と、その言葉のとおりに止めるつもりの無さそうな刺激は、ヒューバートをどんどん追い詰めた。
膝での刺激とは思えないような快感に息が上がる。
先走りの量は増し、下着の張り付く不快感は増す一方だ。
ヒューバートはシーツを握っていた手を、そろそろとアスベルのシャツへと伸ばすと軽く引っ張る。
その動作で気づいてくれたのか、刺激が少しだけ弱まった。
ヒューバートは捨てきれない自尊心に躊躇する素振りを見せるが、直ぐに此方を見つめるアスベルへと視線を向けた。
「……オ、ナニーをです」
周りを気にして声を抑えながら、観念して口を開く。屈辱以外の何ものでもない。
だが、このままアスベルからの刺激を受けていられるわけも無かった。
ヒューバートの羞恥と悔しさに歪んだ表情を見下ろして、アスベルは正反対に満足げに笑った。
そして、今まで止む事無く与えていた刺激を止めてやる。
安心したように息を吐くヒューバートの口元に唇を落とすと、そのまま掛け布を剥ぐ。
そして、ズボンの布を持ち上げて存在を主張するヒューバート自身を、そっと撫でた。
「っ、兄さん何して!?」
「しっ、余り大きな声出すなよ」
アスベルの抑え気味な声に、ヒューバートは漸く今の状態を思い出し、身体を緊張に振るわせた。
すぐ隣のベッドではリチャードが、先までアスベルが寝ていたベッドの奥のベッドにはマリクが眠っている。
咄嗟に手で口元を押さえながら、恐る恐る左右のベッドを見た。
リチャードは此方に背を向けている。マリクの方は少々遠くて、眼鏡のないヒューバートには良く見えないが、
規則正しく上下する掛け布を見る限り眠っているのだろう。
少しばかり安心が出来て、肩から力が抜ける。
そのタイミングを見計らってか、今まで大人しかったアスベルが行動を起こした。
ズボンと下着を脱がせ始めたのだ。
「だっ、駄目ですってば、兄さんっ! 皆が居るのに……ッ」
周りを起こせないと考えるあまりに、ヒューバートは思い切った抵抗が出来ない。
それを良い事に、アスベルは好き放題に振舞い、簡単に衣服を脱がしてしまう。
薄暗い室内でも、窓から差し込む月明かりのせいで、アスベルの目には確りと見えているのだろう。
そう考えるだけで、カァっと頬に熱が集まる。
どうにかこの状況から逃げられないかと、ヒューバートはシーツを蹴って身じろぐ。
ヒューバートの逃げようとするその行動が気に食わず、アスベルは中途半端に勃起したままだったヒューバート自身を、
口に含んだ。
口内に先走りの苦みが広がる。
だがそれも愛しい弟の物と思えば苦でもなく、寧ろもっと出せとばかりに吸い上げた。
「っ、……ひぁっ?!」
途端にビクンっとヒューバートの体が跳ね、抑えきれなかった声が静かな部屋に響く。
アスベルはちらりと視線を上げ、ヒューバートを盗み見た。
そこには自分の失態に恥じ入り、頬を染め、瞳一杯に可哀想な位に涙を溜めた弟の姿が、
月明かりにぼんやりと照らされていた。
アスベルの視線に気づかずに左右のベッドへ視線を移していたヒューバートが、アスベルの視線に気づいて二人の目が合う。
途端にギロリと視線が鋭くなった。
しかし、涙に濡れた瞳に幾ら鋭さを含めたところで、迫力が出るはずもない。
逆にその表情が、アスベルを益々調子に乗せると気づいては居ないのだろうか。
アスベルは挑発するように笑みを浮かべて見せ、
震えるヒューバート自身へねっとりと、本人に見せ付けるように舌を這わせた。
今まで散々に煽られた羞恥と、舐められる刺激にヒューバートの目に怯えが生まれ、
軽く開かれた唇から、甘ったるい吐息が零れる。
「っ、ふ……、んぅうッ」
ヒューバートの弱点を知り尽くしたアスベルの容赦ない口淫に、ヒューバートの身体が跳ねる。
そして、元より限界の近かった自身からは、だらしなく先走りが零れ竿を伝い落ちる。
アスベルはそれを、わざと音を立てて吸い上げ、ヒューバートを追い詰めた。
二人っきりでも恥ずかしいというのに、仲間との相部屋での行為に、ヒューバートは頭がついていかず、
口元を両手で押さえ声を抑える事しか出来ないままに追い上げられていく。
「……っは、ヒューバート気持ち良いのか? 先走り凄いぞ?」
状況を楽しむ兄のからかい口調に言葉を返すことも出来ずに、首を横に振るヒューバート。
早く終わって欲しい。ただ、それだけだった。
「にい、さ……もう、早くっ」
結局快感に負け、自ら強請るように兄を見つめる。ヒューバートは半ば自棄になっていた。
アスベルは弟の思わぬ言動に一瞬呆けるも、直ぐにニヤリと彼らしからぬ意地悪な笑みを浮かべ行為を再開した。
痛いくらいに強く扱き、敏感な先端に爪を立て追い上げる。
「っひぅ、あっ! っんあぁ!」
強い刺激に身体を強張らせたヒューバートは、声を抑える事も忘れ、精を放った。
暫くぶりの射精で、濃い精がヒューバートの腹と、アスベルの手を汚す。
アスベルは手に付いた精を、不躾にもしげしげと見つめ、何を思ったか舐め取った。
そして、漸く呼吸も整い出したヒューバートの耳に、とんでもない言葉が投げかけられる事になった。
「随分濃いな、溜まってたなら素直に言えば良かったのに……っ!?」
「……っ、この変態!」
ヒューバートは反射的にアスベルを思いっきり蹴り上げた。
繰り出された蹴りが諸に入ったせいか、アスベルの声が中途半端に止まる。
そして、そのままベッドから落ちた。
どさりと大きな音がして、流石に誰かしらが起き出すのではないかと、視線を向けたがその様子は無い。
静かな部屋に、兄の呻く声だけが響く。
ヒューバートは一度ベッドの下のアスベルに視線を向ける。
一度の反撃だけでは気が済みそうにない。ふと手元にあった枕に気づくと、それを床のアスベルへと投げつけた。
「もう、兄さんなんか知りません!」
直ぐに掛け布を引っ張り上げると、そのままベッドに横になった。
未だに床で蹲る兄は完全に無視をして。
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